紫陽花(アジサイ)の別名には、七変化や四片、手毬花などがあります。その他、オタクサや八仙花も紫陽花の別名です。言い換えて言葉が変わると、また違った風情が漂いますね。
紫陽花の別名は、俳句や和菓子などでよく使われています。知っていると季節の愉しみが増えますね。紫陽花の別名を5種類紹介します。
紫陽花の別名6種類とは?
紫陽花の別名には、こんなものがあります。
- 七変化(しちへんげ)
- 四片・四葩(よひら)
- 手毬花(てまりばな)
- オタクサ
- 八仙花(はっせんか)
まず目につくのは、数を使った別名です。「七変化」「四片」「八仙花」など、さまざまな数があります。
そして「手毬花」のように、花姿を毬に見立てた美しい別名もあります。とたんに女性的な雰囲気になり、思わず使ってみたくなる名前です。
そして少し変わっているのが「オタクサ」。これはドイツ人医師シーボルトにちなんだ別名なんです。
それぞれの紫陽花の別名について、由来やエピソードを見てみましょう。
紫陽花の別名(1)七変化(しちへんげ)
紫陽花の別名といえば、やはり有名なのが「七変化」。七変化とは、咲き始めてから時間が経つにつれ、色を変えることからついた別名です。
◆薄い緑から白へ、そして秋色へ
初夏を迎えて咲いた紫陽花は、刻々と色を変えていきます。紫陽花の咲き始めは、ほんのりと淡い緑色。やがて緑は薄れゆき、白くなっていきます。
そして青色もしくはピンク色になり、最終的に紅紫色へと咲き進んでいきます。
その色の変化はとてもなだらか。自然なグラデーションを描く様子は、紫陽花の魅力の一つです。
咲き始めに淡い緑色をしているのは、葉緑素の緑がうっすら見えるから。花に含まれた葉緑素によって、黄緑色を帯びた色になるのです。
咲き進むうちに、少しずつ葉緑素は分解されます。すると次はアントシアニンがつくられて、青やピンクになっていくのです。
さらに時間が経てば、有機酸が蓄積されます。そして最後は、アンティークカラーのようなくすんだ赤みを帯びるというわけです。
◆「七変化」という名の山紫陽花も!
七変化は紫陽花の別名です。ただ、その名も「七変化」という品種名の山紫陽花もあることをご存じですか?
こちらが山紫陽花の七変化。楚々とした小花が、とても繊細です。慎ましやかで趣きがありますね。小ぶりな葉や細くしなやかな枝ぶりも美しく、山紫陽花ならではの風情を感じます。
◆ランタナの和名も「七変化」
可愛らしい小花が、肩を寄せ合うように咲くランタナ。夏になると庭先や道端で咲き、そのカラフルな色合いに見入ってしまいます。
ランタナは、和名では「七変化」と呼ばれています。そう、紫陽花の別名と同じなんです。
なぜ一つの花の中にさまざまな花色があるかというと、咲き進むにつれて花色が変わっていくから。
黄色がオレンジや赤に変わったり、黄色の花が白へ、そしてピンクへと変わったり。まさに「七変化」ですね!
紫陽花の別名(2)四片(よひら)
紫陽花の別名には「四片」もあります。「花びら(正確にはガク)が四片あること」からつけられた名前です。
梅や桜、つつじなど、目にする花の姿を想像してみてください。多くは花びらが5枚です。ところが紫陽花は4枚。花びらの数を主役にするとは、とても風流だと思いませんか?
紫陽花が咲く季節になると、和菓子の世界にも紫陽花を見立てたものが多く登場します。中には「四片の花」「よひらの花」いった名前のものを見かけることもあります。
ちなみに現代俳句では「四葩」という漢字を当てることも。「葩」とはなかなか見かけない漢字ですが、この字自体が「花・花びら」という意味を持っています。
紫陽花の別名(3)手鞠花
紫陽花には、「手毬花」という愛らしい別名もつけられています。丸く集まった装飾花の形から、手毬花と呼ばれるようになりました。
ちなみに手毬花は、初夏に咲く大手毬(オオデマリ)の別名でもあります。
たしかに、ふんわりと大きく咲く大手毬は、手毬そのものですね。
紫陽花の別名(4)オタクサ
紫陽花の別名といえば、「オタクサ」も忘れてはなりません。この名は、シーボルトの美しき恋心から生まれた名前です。
1823年、長崎に渡来したドイツ人医師シーボルト。植物研究にも情熱を注ぎ、とりわけ紫陽花を好みました。
そんなあるとき、シーボルトはひと目見た日本人女性に夢中になります。その女性の名は楠本滝、「お滝さん」。そう、最愛の女性の名を、自身が好きだった紫陽花につけ、ヨーロッパに紹介したのです。
この後、シーボルトを悲劇が待ち受けていました。任期を終えたシーボルトが帰国しようとした際、たまたま暴風が起こって船が難破。積み荷が調べられました。
その中に、日本国外への持ち出しが禁じられていた日本地図や葵紋付き衣服が入っていたのです。
シーボルトは1年間出島から出られず、その後国外追放されることになりました。いわゆる“シーボルト事件”です。
お滝さんとの間には、イネという名の女の子が生まれていましたが、もちろん妻子は日本に置いたまま。一人で帰国することになったのです。
最愛の女性と引き裂かれ、シーボルトは失意のうちに日本を去ったことでしょう。でもシーボルトが滞在した長崎では、いまも紫陽花が愛され、そして「オタクサ」という名も大事に使われています。
長崎といえば、秋の「長崎くんち」が有名ですが、初夏にも有名な催しがあります。それが毎年5月から6月にかけて行われる「ながさき紫陽花(おたくさ)まつり」です。
そう、紫陽花と書いて「おたくさ」と読むのです!期間中、長崎の街のそこかしこが紫陽花で埋め尽くされます。シーボルトが見たら感動するのでしょうね!
シーボルトのお滝さんへの想いが、いまも長崎に脈々と受け継がれていると思うと、温かい気持ちに包まれます。
紫陽花の別名(5)八仙花(はっせんか)
紫陽花の別名には「八仙花」もあります。これも「七変化」と同じ。さまざまな色合いに変化することから名づけられた名前です。
日に日に色を変える紫陽花を愛でるのは、梅雨ならではの愉しみの一つです。雨に濡れそぼる姿もよし、梅雨の晴れ間に明るく咲くさまもよし。さまざまな色と表情は見ていて飽きません。
まとめ
七変化に四片、手毬花、そしてオタクサに八仙花……紫陽花にはたくさんの別名があります。その多さはとりもなおさず、紫陽花が愛されてきた歴史を物語っているかのようです。
最近では品種改良が進み、洋風の庭に合う紫陽花がたくさん登場しています。育てるうちに年々大株になるのも紫陽花の魅力。お気に入りの紫陽花を身近に置いて、梅雨も穏やかに過ごしたいものですね。